ぼんやり帖

ぼんやりと過ぎていく日々の見たもの聞いたもの読んだものを,書き留めておこうかなあという備忘録。

読んだ本

三連休は台風4号が列島縦断。直撃は免れましたが,雨も降るし風も強い。こういう日は読書三昧。
それにしても,台風って秋に上陸するものだったのでは・・・。一ケタ台の台風って。

ヘビイチゴ・サナトリウム「ヘビイチゴ・サナトリウム」(ほしおさなえ/創元推理文庫)
中高一貫の女子高で,屋上から墜落死した一人の生徒。
彼女を崇拝する下級生,小説を書く国語教師,その自殺した妻,真相を探ろうと周辺を調査する女子生徒二人組。
二人の人間による一人称の文章と,更に複数の人間視点による三人称の文章と,作中の小説の部分とが混在して,この,いわば現実と虚構の境目の曖昧さというか,崇拝する他人と自分を同一視してしまう思春期の思い込みとか,万華鏡のような少女達の気紛れさとか,そんなヒラヒラした感じは分かるのですが,うーん,読みづらい。主人公が誰なのかすらワカラナイよう。
そもそも,無理やりミステリにしたような感じです。重要な登場人物が後から出てきたりして,ちょっと後出しじゃんけんぽいしなあ。
余談ですが,解説を笠井潔氏と久美沙織さんが書いてるのですが(解説2人というのも珍しいですが),久美沙織さんの方の解説が・・・全然あっち向いてるというか・・・これ,本編ちゃんと最後まで読んでないんじゃあ・・・(確かに読了がちょっと辛い本でしたが・・・)

蘆屋家の崩壊「蘆屋家の崩壊」(津原泰水/集英社文庫)
30歳を過ぎて定職を持たない猿渡と,怪奇小説家の通称「伯爵」が,猿渡を運転手とする取材旅行の行く先々で怪奇現象に遭遇する・・・。

まず,折り返しの著者近影を見てびっくり。だ,男性でしたか!
この間読んだ「ルピナス探偵団の当惑」のイメージで,てっきり女性だと思ってました。(当初のPNは,「津原やすみ」だったというし。)
少女小説の体裁を借りていたルピナスとまるで雰囲気が違って,これは滋味豊かな文章の奇譚集。知らないと同じ作者とは思えない。

あちらこちらの旅先で出会う,日常がずるっとずれて取り込まれる怪異。
この感じ,西洋の怖さじゃなくて,正に和の怖さです。民俗学的な怖さというか,日本人の生理に障る気持ち悪さというか。
八百比丘尼の伝説などがモチーフに使われているからかな・・・と今,パラパラとめくってみましたが,そういうずばり日本の伝承が使われているのはそれくらいで,後の短編の道具立ては,ギリシア神話とかケルベロスとか,帰化動物のヌートリアとか,ライカのカメラとか,どっちかというと洋物ばっかりだったのに改めてびっくり。
でも,たとえ舞台が都会の雑居ビルでも,醸し出される雰囲気は,日本民話の怖さ。
「猫背の女」とか,もう生理的にぞおぉ〜です。タイトルだけでもう怖いよう。
超常現象ですらも,読んでると情景がどんどん浮かんでくる。これは筆力があるんだろうなあ。平易な文章なのに。
特に印象的だったのが,神経症の発作を,脳内にインク瓶があって・・・と例える文章があるのですが,このイメージ,上手いよなあ。

でも,どこかとぼけた味わいもあって,そもそもこのコンビが意気投合したきっかけが,「好物が豆腐」という共通点,というのがなんともおかしい。うまい豆腐さえあれば,日本全国,伯爵の運転手をかって出てしまう猿渡。また,豆腐の描写がおいしそうなんですよねえ・・・。

ところで,ポーの「アッシャー家の崩壊」,これまで何度となくオマージュ作品を読みましたが,そんなに作家のインスピレーションを刺激するような作品なのかしら。どうも,そういう派生作品を読みすぎて,果たして本物を読んだことがあるのかないのか,もう分からなくなってしまった!

芸もの

きのね〈下〉 (新潮文庫)「きのね」(上・下)(宮尾登美子/新潮文庫)
日本伝統芸能ものを,時々好んで読みます。自分の国の伝統文化でありながら,それはあまりに別世界。
これは,名門歌舞伎役者の所帯へ奉公にあがった女性の昭和一代記。
18歳で梨園の跡取り息子付きの女中になり,「坊ちゃま」に仕えて仕えて,戦中戦後の生活苦や食糧難も,そういう面にはまるで我関せずの「坊ちゃま」を影でずーっと支え続けて着る物食べる物を捻出して,自分は常に一歩引いて,「坊ちゃま」が浮気しようと結婚しようと暴力を振るおうと,ただひたすらに,つき従う女の一生。
明治大正生まれの女性って,こんな人多かったのかなあ・・・。
それとも,そこまで「坊ちゃん」に惚れてたの?いえ,坊ちゃんの「芸」に惚れていたの?なんとなく,後者であってくれると,まだ納得いく気がします。
ところで,これは,第十一代市川団十郎とその夫人をモデルにした小説だそうで,読んでるうちに,この癇癪持ちの「坊ちゃん」が出るたび,今の「海老ゾー」の顔が浮かんで仕方なかったです。

紅匂ふ (1) Be・Loveコミックス「紅匂ふ」(1)〜(4)(大和和紀/講談社)
やえさんのブロクで拝見して,面白そうだなあ,と思って読んでみました。
祇園で「百年に一人」と言われるまでになった,舞妓・咲也の芸の日々。
頑張り屋の咲也。幼児の頃に置屋に幼女に行き,6歳の6月6日から芸事を習い,厳しい修業に耐え,中卒でプロとしてお座敷に。昭和の高度成長期くらいまでは,祇園にはまだまだこんな舞妓・芸妓さんがいたんでしょうか。
丁寧で美しい絵柄と,はんなりした京都弁が,非日常の祇園の世界を見せてくれます。

原案とされる「芸子峰子の花いくさ」も,試しに読んでみましたが・・・こちらはちょっと・・・うーん,作者が鼻持ちならないというか,えげつないというか。本当はこれくらいのキャラクターじゃないと,祇園で生き抜いてはいけないの?悪役とされてる長女にも,充分負けていないような気が。
うーん。ノンフィクションものとしても,「きのね」とはかなり品格が劣ります。
エピソード自体は,かなりマンガでも使われているのに,だから,語ってる話は同じはずなのに,咲也ちゃんのけなげさが全然感じられず。
「舞妓さんは天使。邪心も汚れもない天の子ども」(これは大和和紀さんのオリジナル部分?)というのが,このマンガの真骨頂だったのに。
実は私は,「あさきゆめみし」については,かなりの部分が,大和和紀ではなくて「田辺聖子の新源氏物語」じゃないだろうかと思っているのですが(いや,大元は紫式部なんでしょうが・・・),これについては,あの原案をこのマンガに昇華した大和和紀さんの手腕に一票です。

読んだ本

ルピナス探偵団の当惑「ルピナス探偵団の当惑」(津原泰水/創元推理文庫)
もともとは,10年ほど前ジュニア小説として発表されたシリーズだとか。
名門私立高校が舞台で(学校名は○○学園とかいう。),ごくごく素直な普通の女の子の主人公に,その友人2人の3人組。友人のキャラクターは,1人はボーイッシュ,1人はお嬢様。そして主人公には,性格の全然違う派手な姉がいて・・・なんて,まるで絵に描いたような定番の設定ではありますが,なんだか妙にとぼけた味わいが病み付きになりそう。
この,主人公の健気な自分突っ込み(すごいカワイイ!)とか,彼女が片思いしてる男子生徒のクールかつスットボケ加減(いい味出してます。)とか。こういうユーモアって楽しいなあ。
創元推理文庫というレーベルから再刊されるだけあって,内容は結構バリバリの本格推理です。何せ,嵐の山荘あり,アリバイ工作あり,ダイイング・メッセージあり,皆を集めて「さて」という探偵あり。作者の遊び心満載です。
起きている殺人事件は結構血生臭いのだけど,それは,本格推理のための記号としての殺人。
三編が収録されているのですが,私が印象的だったのは「大女優の右手」。
「十角館の殺人」とか,「葉桜の季節に君を想うということ」とか「イニシエーション・ラブ」とか,映像化不可能,即ネタバレ!な推理小説っていろいろありますが,これはかえって,マンガとかで描くと,「あっ!」と驚くんじゃないだろうか。(でも,きっと制約があって無理なんだろうなあ。)

ところで,作中に
「アナグラム」「なんて云った?」「広島名物の駅弁だね。」「アナゴ飯。似てない。」だの,
「ブルドック荘なんて旅館ないじゃないですか!」「ソースみたいな名前って覚えてたから。本当はね,おたふく荘」だの,
微妙にローカルな会話があるな・・・と思って作者紹介を見たら,広島の方なんですねー。
あっ,この主な著作の「少年トレチア」というのは,萩尾望都さんの表紙の・・・積ん読にあるわ〜。今度,掘り出して読もう。

読んだ本

三人目の幽霊「三人目の幽霊」(大倉崇裕/創元推理文庫)
落語専門誌「季刊楽儀」の女性新米編集員と編集長のコンビによる日常の謎系落語ミステリ短編集。ああ,なんだか夢のような職場だよ。落語も最前列で見放題。
落語を生かしたミステリとして一番よく出来ているのは「患う時計」だろうなあ。
でも,なぜか妙に印象に残るのは,「崩壊する喫茶店」。はっきり言って,すごくご都合主義な話だと思うのだけど。でも,後味が悪くない。
・・・と思ってたら,解説を読んで「え?え?」そういう見方もあるという事か?ミステリ読みの性ですねえ。それとも,本当にそういうオチなの?真実はいかに。
それにしても,謎の喫茶店のマスター。一番キャラ立ちしとるわ。

父の縁側、私の書斎「父の縁側、私の書斎」(壇ふみ/新潮文庫)
女優,壇ふみさんのエッセイ。若くして死別した父との思い出,暮らした家の記憶。
小さい頃の思い出というのは,その時住んでいた家の風景とセットで湧き上がりますよね。間取りやふすまの模様,お風呂のタイルまで・・・・。でも,たいていは,今はその家を引っ越して,そこはもう思い出の中にしかない家になっている。
私の実家が今の家に引っ越したのは,私が小学校4年生だったのですが,初めて出来た自分の部屋は思い出の中にしかありません。
就職して家を出て何年かして,建て増しをして大きな部屋に広げてしまったのだった。
緑のカーペットを引いてあったあの6畳の洋間,木目がおじいさんの顔に見えて怖かった合板の壁,マーブルチョコのおまけのシールが貼り付いてた本棚,自分で選ばせてもらったオレンジ色の花柄のカーテン。小学4年生から大学を卒業するまでの,あの私の部屋はもう,跡形もないのでした。
既に独り暮らしをしている身だし,建て増しに反対する理由も筋合いもなかった訳ですが,やっぱり時々,あの部屋が懐かしい。
壇ふみさんは,なんと今も生まれ育った家にお住まいだそうで(建替えはしているのだけど),それはそれで豊かな人生かも・・・・と思っていたら,なんとも悲しい文庫本あとがき。また,このあとがきが,一番の名文です。淡々とした語り口調だけに,かえって切実に訴えかけられる。
一度壊してしまったら,もう永遠に戻らないのに・・・。

「バレリーナの情熱」(森下洋子/角川文庫)
日本が生んだ世界のプリマ,森下洋子さんの自叙伝。なぜか職場に転がっていたので借りて帰りました。もう10年くらい前の本みたい。
彼女の舞台では,大昔に「くるみ割り人形」を見たっけ。なんせ,松山バレエ団を四国のバレエ団だと思っていたので話にならん。
努力も才能のうちだと思いますが,彼女のように,小さい頃好きになったものを,生涯を通じて同じテンションでずっと好きでいられ続けるって,それが本当に稀有の才能だと思う・・・。
本当に,バレエに人生の全てを捧げきっているのだなあ。
うーん,ヌレエフとの「白鳥の湖」「ジゼル」,映像でいいから見てみたい。

そういえば,「キッチンもりした」は並木通りの老舗でしたね。一度ハンバーグを食べたなあ。店の中に森下洋子さんの舞台写真やトウシューズが,控えめに飾ってあったっけ。
これも,今はもう思い出の中にしかない風景ですが。

やっぱりミステリ

葉桜の季節に君を想うということ「葉桜の季節に君を想うということ」(歌野晶牛/文春文庫)
前から気になっていましたが,文庫になったのでやっと読めました。
タイトルと本の装丁からして,なんとなくちょっと切ない青春小説のような内容を想像していましたが・・・見事にだまされたぜ。
何を言ってもネタバレになってしまいますが。
痛快ではありますが,何がスッキリしないのかなあ・・・と考えたら,どうやら,(ネタバレ反転)古屋節子がそれ相応の報いを受けない事にひっかかったらしいです。どう考えても同情の余地なしの,ただの嫌な女だと思うけど。というわけで,感情移入できる登場人物がいないのでした・・・。

世界の終わり、あるいは始まり「世界の終わり、あるいは始まり」(歌野晶午/角川文庫)
幼い子どもが殺害される連続誘拐事件。ある日,主人公は,自分の小学六年生の息子に疑惑を抱く・・・・
「少年犯罪」「加害者の親」という深刻な問題で,なんとも辛い話だなあ・・と思っていると,気のせいかなんだかコミカルに?ああ,いや,これは錯乱してるのね・・・まただんだん悲惨な話に・・・と思っていると・・・
なんだか,雰囲気は全然違うのですが,コリン・デクスター(海外ミステリ作家。その作風で,ネタバレヒントになるので反転)を思い出しました。当たれば読者のカタルシスは大きいのだけど,作家としてはもんのすごく消耗するという。

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Author:はんちゃん
重度活字中毒者
積ん読に追われている。

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